「ちくま学芸文庫 独裁体制から民主主義へ―権力に対抗するための教科書」を読んで考える
書籍名 |  :  | 独裁体制から民主主義へ |
著作者 |  :  | ジーン・シャープ |
出版社 |  :  | 筑摩書房 |
発売日 |  :  | 2012/08/10 |
ISBN |  :  | 9784480094766 |
「アラブの春」とは何だったのか。 (2013/09/23)
冷戦終結後、1990年代後半から、世界各地で数多くの民主化運動が起こった。それらの民主化運動に参加した多くの活動家が読んでいた本があるという。その「非暴力抵抗運動の教科書」ともいわれる本を読んだ。そして考えた。
この本は、米国非暴力闘争研究家のジーン・シャープ氏により、1993年に当時のビルマでの抵抗運動のために書かれた。その後、各国に広まり2008年時点で28の言語に翻訳されている。また、執筆にも協力した退役米国陸軍大佐のロバート・ヘルヴィー氏が、セルビア人の若者を対象に非暴力闘争のワークショップを行い、この若者たちが、後にミロシェヴィッチを倒した「オトポール!」という組織となり世界の注目を集めることとなった。
暴力的な方法に頼るのはまさに、抑圧者がほぼ常に優勢となるような闘いを選んでしまったということだ。
と説き、さらにさまざまな角度から暴力的な抵抗運動の危険性を訴える。その上で、独裁者の搾取を支えているのは民衆であり、民衆が目覚め、効果的な方法で抵抗するならば、場合によっては短期間にも体制の崩壊が可能であると説く。
この本には、独裁体制の構造の見極め、弱みの発見、戦略計画に沿った抵抗、民主化後に至るジーン・シャープ氏の長年の研究、分析が書いてある。
日本に住んでいる、少なくとも私は、冷戦終結後、何となく生暖かい平和があると考えていて、今、世界で何が起こっているのか、明らかに理解の限界を超えているように思う。
ここからは、この本の内容ではないが、ミロシェヴィッチを倒した「オトポール!」の主要メンバーであったスルジャ・ポポヴィッチらがCANVASという団体を立ち上げ、非暴力闘争のノウハウをエジプトやチュニジアを始めるとする世界各国の活動家に輸出し始め、「アラブの春」に多大な影響を与えることとなる。
これらは「アラブの春」のひとつの側面であり、「アラブの春」が本当は何だったのかに対する答えは、少なくとも現時点では、まだ出ていないように思う。
私は、この書籍に対する評価を決められずにいる。例えばCANVASの活動が武器商人と似た側面もあるように思うことからだ。どこかの大国が資金とノウハウを供給し、ソーシャルメディアなどで不満を煽れば体制崩壊も可能となるだろうから。
日本でこの本が実践されることはないだろう。間違いなく既に民主主義国家だ。でも、明らかに別な問題を抱えている。余りにも多くの国民が「不幸」と感じている国がまともであるわけがない。特に若者世代は、大きな困難に直面することが容易に推測できる。
日本を覆う分厚い雲のような「不幸」から、国民を開放する日本のためのメソッドは、たぶん、まだないのだろう。でも、自ら「考える」ひとが増えること、それが、日本の再生・進化の鍵のような気が、私はした。
スルジャ・ポポヴィッチのTEDでのスピーチ
YouTubeにジーン・シャープの映像があった。
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ch桜では、カラー革命からシリアまで、幅広く、大きな視点で討論している。
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