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「日本インテリジェンス史―旧日本軍から公安、内調、NSCまで」を読んで考える

書籍名 : 日本インテリジェンス史―旧日本軍から公安、内調、NSCまで
著作者 : 小谷 賢
出版社 : 中央公論新社
発売日 : 2022/8
ISBN : 9784121027108

戦争の危機と情報について考える (2023/01/15)

戦争の危機が少しだけ現実味を帯びて庶民にも感じられるようになった2023年。ならばインテリジェンスに関する整備が必要なのではないかと誰もが考えることだと思う。そこでこの本「日本インテリジェンス史―旧日本軍から公安、内調、NSCまで/著:小谷 賢」を読んでみた。

すでに通信傍受と暗号解読を行っていた陸軍特種情報部の北多摩通信所では、(1945年の)8月12日に通信傍受によって日本がポツダム宣言を受諾すると察知し、その直後から暗号書などの焼却が始まっていた。

私たち庶民の間では、日本は情報によって戦争に負けたという考えを信じる人も多いが、この本には戦前、日本は米国の暗号を解読していたとある。しかも、そのことは戦後1948年までGHQにも隠されていたというのだから驚く。さらにその優秀な日本の組織は、戦後も形を変えてはいるが今に至るまで存続しているというのだ。この本には、その軌跡が詳細に書かれている。

例えば太平洋戦争中、日本陸軍は米軍の高度な暗号の一部を解読していたが、海軍はそれを解読することができず、陸軍は海軍が解読できないことも把握していた。米軍の矢面に立たされる海軍こそ米軍の暗号解読情報が必要であったにもかかわらず、である。陸軍は自分たちの暗号解読情報が「陸軍の」機密事項にあたるとして、海軍にそれを提供しなかったのだ。

日本は情報で負けたのではなく、縄張り争いで負けたようだ。イギリスがアラン・チューリングらの手によりドイツの暗号を解読した史実は映画にもなり、有名な話である。当然、米国の暗号が稚拙なものであるわけもなく、現在のIT社会の基礎を作った人たちが全力で戦った第二次世界大戦、そんな偉人に匹敵する人物が日本にもいたということなのだろう。チューリングの映画では解読後の戦いについても描かれている。情報の巧みな取り扱いで連合国を勝利に導いた様が描かれている。改めて日本中枢の稚拙さには驚かされる。

他方、公調が海外で独自に情報収集を行おうとしても、今度は外務省の壁が立ちはだかる。

mig soviet union

photo:Netloop/Pixabay

この本「日本インテリジェンス史」には、信じられないくらい多くの情報機関と、その活動の奇跡が詳細に記されているのだが、結局「縄張り争いかよ」と言いたくなるような記述を数多く見ることができる。保守派と云われる人々の中にはGHQや米国に日本は情報機関を作らせてもらえなかったなどと言う人もいるが、リーダーシップの欠如からまともに機能する組織が作れなかっただけなのではないかと思えてしまう。

この本にはインテリジェンスの場で活躍された方々の名前が大量に挙げられているのだが、疑問を抱かざるを得ない人も多い。例えば国産スパイ衛星の導入に尽力した政治家として野中広務氏の名前が挙がっているが、この人は引退後、かつての監視対象であった共産党の機関誌に登場しているのである。このこと自体については私は何かを知っているわけではない。しかし、戦前に日本を戦争に引きずり込んだのは日本の中枢にいた、外国勢力と関係が深い人たちであったという研究もあり、今、インテリジェンス機関を整備したとして、出来上がった時にはトップがスパイだったなどと云う、笑えない状態さえ勘繰ってしまう。杞憂であることを望むばかりではある。

改めて日本のインテリジェンスについて考えてみれば、米国CIAの協力を得ながら進めていくしか方法は考えられない。それでは超巨大多国籍企業が活動しやすい草刈り場を整備するだけなのではないかという新たな杞憂も立ちふさがる。

インテリジェンスについて考えると、本当の問題はもっと根の深いところにある気がしてならない。どう考えても次の戦争で日本が生き残れる芽が見つからないのだ。私たち庶民ももう少し今のうちに考えても良いのではないかと思う。

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