「世界インフレと戦争 ― 恒久戦時経済への道」を読んで考える
書籍名 |  :  | 世界インフレと戦争―恒久戦時経済への道 |
著作者 |  :  | 中野 剛志 |
出版社 |  :  | 幻冬舎 |
発売日 |  :  | 2022/12 |
ISBN |  :  | 9784344986787 |
面白い時代に立ち会う (2023/04/20)
私がこの文章を書いている2023年は、誰もが物価高を実感する年となっている。特に食品の値上がりは私たち庶民を直撃している。輸入に頼る食品だけでなく、今まで比較的値段の安定していた玉子などを含め軒並みの大幅な価格上昇となっている。なぜこれほど幅広い分野の品物が一斉に値上がりするのか。暫くすれば落ち着くものなのか。誰かが仕組んだことなのかとさえ考える。そんな疑問を大きな視点から紐解く本があった。
評論家で通産官僚の中野剛志氏が書いた、『世界インフレと戦争―恒久戦時経済への道』は、私たち庶民を直撃した物価高が、一時的なことではなく、大きな歴史のうねりの一部であるというのだ。本のはじめに次のように記す。
本書の目的は、二〇二〇年代に入って発生した物価の高騰という現象から、世界の構造に極めて重大な変化が起きていることを世に知らしめることにある。それは、歴史的な変化と言っても過言ではない。我々は、ただ食料品や燃料の値上げに直面しているのではなく、世界の大転換点に立ち会っているのだ。
![Photo:geralt @Pixabay](https://jbook.info/wp-content/uploads/2023/07/2584746-e1690657665261-300x200.jpg)
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中野剛志氏の本は、いつも盛り沢山である。第二次世界大戦後のグローバリゼーション、リベラリズムとリアリズム、アメリカのリベラル覇権戦略、リベラリズムとグローバリズムの関係、そしてリーマンショックで始まりウクライナ戦争に至る米国リベラル覇権戦略の破綻、コストプッシュインフレとスタグフレーションなど、特にページ数の多い本ではないが、私たち庶民には噛み砕くことに労力が必要となる。800年前のインフレにまで話が及ぶのである。それだけに、今までの疑問に答えを得る心地良さも大きい本だ。
そのなかでも特に腑に落ちる感覚を覚えた内容は「インフレ」についてである。今まで漠然とおかしいと思いながら聞いていた「ハイパーインフレになる」という扇動的な言葉としてよく使われる「インフレ」ではあるが、「コストプッシュ・インフレ」と「デマンドプル・インフレ」と分類し解説する。
別の角度から見ると、コストプッシュ・インフレとは、需要が縮小していくという側面に関して言えば、デマンドプル・インフレよりむしろ、デフレに近い。コストプッシュ・インフレには、需要を縮小させるという意味で、デフレ圧力が発生していると言ってもよいであろう。いわゆる「スタグフレーション」とは、実は、「コストプッシュ・インフレ」を言い換えたものに過ぎないのである。実際、一九七〇年代のアメリカにおけるスタグフレーションについて、プリンストン大学の経済学者アラン・プラインダーは、供給側のショックによるものだと結論付けている。要するに、「コストプッシュ・インフレ」だったというわけである。
米国リベラル覇権戦略の破綻によるグローバリズムの終焉、そしてインフレと内向きになる世界。日本は中国共産党の地域覇権の下で生き残る道を模索するしかないのであろうか。その答えとして副題にもなっている「恒久戦時経済への道」を中野氏は説く。
多くを考えさせられる本である。中野氏が危機から脱する道を示すのだが、国民の大半は、危機を増すような政治家が大好きなわけである。30年間経済成長しない苦しみと、それ以上の危機に向き合うことになってもなおマスメディアを妄信するわけである。日本人が元来持つ権威主義的思考で、アメリカのリベラル覇権戦略をありがたがり、がっちり嵌り過ぎて身動きがとれず、いよいよ詰むのか。
不謹慎ではあるが、一つ云えること「面白い時代に立ち会えるのかもしれない」ということだ。私たち庶民に何ができるのだろうか。