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「自衛隊の闇組織―秘密情報部隊「別班」の正体」を読んで考える

書籍名 : 自衛隊の闇組織―秘密情報部隊「別班」の正体
著作者 : 石井 暁
出版社 : 講談社
発売日 : 2018/10
ISBN : 9784065135884

ドラマ「VIVANT」で、秘密部隊「別班」を考える (2023/09/03)

地上波テレビのドラマ「VIVANT」で注目されることとなった自衛隊の秘密情報部隊「別班」。その「別班」について書かれた本『自衛隊の闇組織―秘密情報部隊「別班」の正体/著:石井 暁(イシイ ギョウ)』を読んだ。

砂漠

Photo by hbieser via Pixabay

「別班」は都市伝説なのか。それがこの本の一つのテーマといっても良いだろう。国内最大手の通信社、共同通信に勤務する石井氏自身の「別班」への取材の軌跡が書かれた本だ。石井氏は、1994年の防衛庁記者クラブ入会から防衛庁への本格的な取材を始め、ついに2013年11月27日、「特ダネ」として「別班」存在の決定的証言や、独断での活動実態を記事とし、順次原稿を加盟新聞社に送信するに至る。それに対してすぐに政府の見解が発せられる。

同日午後11時過ぎ、防衛大臣・小野寺五典が共同通信の報道について、防衛省内で取り囲んだ各社記者団に対し、「陸上幕僚長に過去と今、そのような機関があるのかという確認をしたが、ないという話があった」と述べ、別班の存在そのものを否定した。当然、織り込み済みの防衛大臣の反応だった。

と石井氏は記す。もちろん簡単に記事として配信できたわけではない。膨大な証言を積み上げ「特ダネ」に至るわけである。その過程で得られた貴重な証言がこの本『自衛隊の闇組織―秘密情報部隊「別班」の正体』に綴られているのだ。

私たち庶民には、にわかには信じがたいが、「別班」は日本帝国陸軍と繋がる組織なのである。

中野学校は1938年7月、旧陸軍の「後方勤務要員養成所」として、東京・九段の愛国婦人会別棟に開校した。謀略、諜報、防諜、宣伝といった、いわゆる「秘密戦」の教育訓練機関として、日露戦争を勝利に導いたとされる伝説の情報将校・明石元二郎大佐の工作活動を目標に〝秘密戦士〟の養成が行われた。1940年8月に中野学校と正式に改称し、1945年の敗戦で閉校するまでに約2000人の卒業生を輩出したとされる。

その中野学校の教員が、「別班」へ繋がる組織の幹部となり今に至るというのだ。また石井氏は、「別班」の記事発表後も、「別班」の取材を続け、別班OBから証言を得て、別班員の置かれた過酷な立場、環境も伝えている。

石井氏自身は、特定秘密保護法案を成立させないために、国会通過の時期に合わせ、自衛隊の組織図にもない部隊が、海外で非合法な活動をしているというスキャンダルとして記事を発信したわけで、「別班」に対して否定的な立場が窺える。

そもそも、日本には「スパイはいない」となぜか信じられてきたように思う。しかし、情報組織は多数ある。危機管理の専門家である小谷 賢氏は『日本インテリジェンス史―旧日本軍から公安、内調、NSCまで』という本で多数の組織を紹介している。しかも、そのほとんどが戦中の人材により作られた組織だというのだから驚く。個人的感想を書くと「組織が有り過ぎ」である。

では、なぜ「スパイはいない」と思われてきたのだろうか。活動を支える法律がないことが最大の問題なのだと、私は思う。また、確かに日本では、他国のように国際テロや、実感できる侵略からは守られてきた。

砂漠

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テレビドラマ「VIVANT」第2話で、阿部寛が演じる公安警察、野崎の言葉がある「でも考えてもみろ。西側諸国であれほどのテロが起こってるっていうのにアメリカの51番目の州と言われる日本では本格的な国際テロはいまだに起きてない。その鍵を握るのは別班だ。公には公表されていない自衛隊の影の諜報部隊、それが別班と言われる部隊なんだ」と。

もちろんエンタテインメント作品なので、真偽を問うこと自体が間違っているが、そんな側面もあるように思う。「別班」だけでなく多くの情報組織に守られてきたのかもしれない。それでも、多くの情報組織の中で「別班」が特異であることは間違いがない。伝説の情報将校・明石元二郎を目標とした戦時中の中野学校の伝統を受け継ぎ、数多くの証言や、関係者による多くの書籍が出版された今でも政府が存在を認めず、人間を媒介とした諜報活動であるヒューミントを超法規的に海外でも行う組織は、他の組織とは異質である。

私たち庶民は、エンタテインメント作品を楽しむだけでなく、現実の問題としてどう向き合うかを考える時期なのだとも思う。「グローバル・スタンダード」などという言葉がもてはやされ、強引と思えるくらい強力に国際化を推し進めてきた結果、負の側面でも「世界標準」を垣間見ることができるニュースが増えている。新たな戦前という人もいる。軍隊さえなければ戦争にならないという論調の報道が多いが、これが間違いであることは、すでに歴史が証明している。国を守るための法整備をしないということは、国民の命を懸けた壮大な実験へと向かっているようにしか思えないのだ。

しかし、難しいのが、自民党がごり押しする「緊急事態条項」のようにタチの悪い法案もあるということだ。本当に難しい。でも、だからといって、何も考えずに、先の世界大戦のような悲惨な現実へと突き進むことは避けなければならない。何が本当に「子や孫のため」なのか考え、私なりの結論を導き出したいと、改めて思う。

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