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「世界で最初に飢えるのは日本」を読んで考える

書籍名 : 世界で最初に飢えるのは日本―食の安全保障をどう守るか
著作者 : 鈴木 宣弘
出版社 : 講談社
発売日 : 2022/11
ISBN : 9784065301739

消えた「遺伝子組み換えでない」を考える (2023/09/16)

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Photo by akirEVarga via Pixabay

私たち庶民のあいだで「食」の問題というと、どうしても価格高騰が最初に思い浮かぶ。価格が安定していた玉子などの高騰に、生活を圧迫されているという声も聞こえてくる。

でも、とりあえず買うことはできる。この本『世界で最初に飢えるのは日本―食の安全保障をどう守るか/著:鈴木 宣弘』を読むと、日本全体が「食料を買えない」という危機の崖っぷちにあることを改めて知ることができる。

日本のカロリーベースの食料自給率は、二〇二〇年の時点で、約三七パーセントという低水準だ。「三七パーセントもあるなら、まだまだ大丈夫」と思う人もいるかもしれない。しかし、三七パーセントというのは、あくまで楽観的な数字に過ぎない。農産物の中には、種やヒナなどを、ほぼ輸入に頼っているものもある。それらを計算に入れた「真の食料自給率」はもっと低くなる。農林水産省のデータに基づいた筆者の試算では、二〇三五年の日本の「実質的な食料自給率」は、コメ十一パーセント、野菜四パーセントなど、壊滅的な状況が見込まれるのである。

少し年齢を重ねた世代では、旧共産圏の映像で、棚にほとんど食料品のないスーパーマーケットなども見たことがあるだろうが、ここ日本では食料品を買えないなどということは、災害時などを除きなかったのではないだろうか。災害時でさえ、日本では極めて短い時間で供給が再開されていた。

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Photo by Kanenori via Pixabay

しかし、じっくりと情報に目を向ければ、余りにも多くの問題の上にかろうじて成り立っているのが日本の「食」であることに気が付くのではないだろうか。

低い自給率の問題だけではない。農業従事者の高齢化、技能実習生頼りの労働力、争奪戦での「買い負け」、世界的な水不足、地球環境の変化や戦争による世界的な供給不足、原材料高、食の安全性、独占的に利益を上げるグローバル穀物メジャー、一代限りの「F1」種の問題、経済優先で生贄となってきた農業、圧倒的に少ない政府支出の問題など、この本「世界で最初に飢えるのは日本」にはあらゆる日本の「食」の危機が綴られている。

その中でも細かなことではあるが、二つの問題について考えてみたい。

遺伝子組み換えでない

遺伝子組み換えでない

食品の原材料名から「遺伝子組み換えではない」という表示が消えたことについて不思議に思っていたのは私だけではないと思う。そもそも「遺伝子組み換え」を問題にすること自体も、実際の問題を隠してしまっているように思っていた。強力な除草剤に耐性を持つように「遺伝子組み換え」された作物なので、強力な除草剤が降り掛けられているという問題がある。しかし、今、その表示さえも見ることができなくなったのだ。この本はその仕組みを教えてくれた。

これまでは、「分別生産流通管理をして、意図せざる混入を五パーセント以下に抑えている」場合なら、「遺伝子組み換えでない」と表示できた。だが、二〇二三年より、「遺伝子組み換えでない」と表示するためには、「分別生産流通管理をして、遺伝子組み換えの混入がない(不検出)と認められる」場合に限られることになる。一見、ルールが厳格化されるのは良いことのようにも思える。だが、現実問題として、輸入される穀物に、遺伝子組み換え作物がいっさい混じっていないと断言するのは困難である。そのため、ルール変更によって、国内の食品のほとんどは、「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなる。すると、どうなるか。「遺伝子組み換え作物をたくさん使った食品」と、「遺伝子組み換え作物を基本的に使っていない食品」を、食品表示によって見分けることが不可能になるのだ。つまり、このルール変更は、実質的に、遺伝子組み換え作物を作っている多国籍企業の利益を増すことになる

誰がこんな手の込んだことをしたのか。大切なことを地上波TVが放送しないのは昔からだが、それにしても酷い。国際金融機関などのせいにもしたくなるのだが、ここまで酷い状態で放置されているのは日本だけのようだ。本当に日本はどうなってしまったのか。そして、どうなってゆくのだろう。

もう一つ、考えてみたい。

ある農水省OBからは「歴代の植物防疫課長の中で、ジャガイモ問題で頑張った方が、左遷されたのを見てきた」という話を聞いたことがある。ジャガイモが持ちこたえられたのは、我が身を犠牲にしても、食の安全を守ろうとした人たちのおかげでもある。

ポテトチップスに使われる「遺伝子組み換えジャガイモ」についての記述だ。ここに登場する「我が身を犠牲にした課長」について、この本にこれ以上は書かれていない。しかし、私たちの日常でも、この課長のようにまともな仕事をする人が、極めて冷遇されるのは良くある光景ではないだろうか。そんなとき、ほとんどの同僚が、この課長のような人を非難していないだろうか。「余計なことしないで欲しいんだよね」などという声が聞こえてきそうである。これは巨大な多国籍企業だけでなく、私たちの社会全体が、利権に連なるピラミッドに組み込まれているように思えてならないのだ。そして日本人の多くが、利権構造の中にあることに対して誇りにさえ思っているのではないだろうか。

かつて日本には我が身を顧みず、志を貫いた人が大勢いた。だから辛うじて今日の繁栄がある。でもそんな志士は絶滅危惧となっている。経済問題、安全保障の問題、様々な社会問題、これらはすべて根っこは同じところにあるような気がしてならない。

しかし、根っこを探していたら「食」の問題は手遅れになる。この本「世界で最初に飢えるのは日本―食の安全保障をどう守るか」では、解決策も提示してくれている。

 

おすすめインターネット動画

鈴木宣弘氏が参加する、インターネット討論番組。チャンネル桜「【討論】壊滅に進む日本農業-危機の食糧安保[桜R5/9/8]」

YouTubeビデオでは他にも、農業を犠牲にして自動車を売ってきた問題なども。国会議員の勉強会での鈴木 宣弘氏の講演
「食料生産振興にこそ、積極的な財政支援を」講師:東京大学教授 鈴木 宣弘氏 責任ある積極財政を推進する議員連盟 第22回勉強会 令和5年4月27日

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