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逃げる力 (PHP新書)

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「逃げる力」を読んで考える

書籍名 : 逃げる力
著作者 : 百田 尚樹
出版社 : PHP研究所
発売日 : 2018/03
ISBN : 9784569837741

平和な時代だからできることがあると思う (2018/11/09)

本来“逃げる”ことはアドレナリンが分泌されるために、やる気を感じられる行動となるようだ。逃げることも戦いの中に含まれているということなのだろう。しかし、なぜか、日本人は“逃げる”ことに後ろめたさを感じてしまう。これは何処からくるものなのか。

“逃げる”ことをテーマに、百田尚樹氏が、様々な切り口で解説してくれる書籍「逃げる力」は、生き辛い世の中で苦労している人々に、新たな見方を提供することで、苦しみから逃れる道を示す本なのかもしれない。

私がこの本を読んだきっかけは、自身が、現在抱えている問題に対する解決のヒントを見い出せるかもしれないと考えたからだ。が、それを見つけることはできなかった。でも、“逃げる”ことを改めて考えさせてもらった。そこで思ったことが「環境の変化」なのである。

「パーキンソンの法則」という法則を聞いたことがないでしょうか。これは、C・ノースコート・パーキンソンという歴史・政治学者が提唱した法則で、一言でいうと、「仕事は与えられた時間いっぱいに膨張する」ということです。

写真:Pixabay

百田氏は、逃げることを考える前に自分自身を効率化し、自分なりの仕事のスタイルを確立することで、現状に対応できるかもしれないと説く。確かに、自分自身で1時間と決めれば、かつて2時間かかっていたことが1時間でできてしまうこともある。でも、大抵の人は、誰かのコントロール下で仕事をしている。経営者はかつて2時間かかっていた業務を、1時間にならないかという。日本人は真面目だから、1時間でやってしまうだろう。「やればできるじゃないか」と、30分でやることを要求される。そんなことで仕事の質が変わってしまっているように思う。個人的には、少し長い目でみれば、かえって効率が落ちている部分も多いように感じるのだが。

確かに、人間、努力や挑戦をしても報われるとは限りません。しかし、努力、挑戦をしなければ、成功しないのも事実です。

私は、随分と長いこと生きてきたが、昔が良かったのか、今が良いのかは、見る視点も違うので分からない。でも、何かを達成することへのハードルは上がっているように思う。例えば、飲食店を経営したいという目標があったとする。でも、現在は、ほとんどチェーン店に取って代わられていて、かつてのように個人が戦える道は狭い。勿論、今もチャンスはある。しかし、道はかなり狭まっているように感じる。大きな挑戦はせずに、違う道、違う人生観を探すのも選択肢の一つではないだろうか。

百田氏は、損得勘定で考えることも説く。損得勘定で考えたうえでも、敢えて挑戦などしないということも選択肢に挙がるのではないかと思う。百田氏が書いていることとは少し違うが、問題はその先にあるような気がする。さらに時代は変わっていると思うのだ。

百田氏は、負けるとしても、壊滅的なダメージを追わないように上手く逃げることを説く。

あまり良い例ではありませんが、大東亜戦争の日本は、残念ながら良い負け方とはいえませんでした。この戦争では、約三〇〇万人もの日本人が命を失いましたが、その死者の多くは、最後の一年で亡くなっています。また一般市民の死者のほとんども最後の半年に集中しています。

私が問題だと思うのは、あの惨劇から何も学んでいないとしか思えないということだ。右とか、左とかのイデオロギーばかりが強調され、玉砕を強いる空気のようなものは、何一つ変わっていないことを誰も問題にしない。日本人は、なぜか1945年の終戦を境に、世界は完全に変わり、善意で満ち溢れたと思っている人が多い。しかし、現在起きていることを鑑みると、また同じ失敗への道を歩んでいるようにしか見えない。グローバル化でさえも、初めてではない。経団連などのやっていることを見ると、通州事件を繰り返す気なのかと思ってしまう。

写真:Pixabay

百田氏は、困難なシチュエーションから“逃げる”ことを説くが、逃げても留まっても難しい選択肢しか持ちえないような環境にいる人々は多い。それでも、百田氏の説く通り、明治時代に紡績工場で働いていた女工さんとは違い、今は、逃げる道を見つけることができるのではないかと思う。但し、更に状況が悪くなれば、いつの時代も犠牲になるのは、庶民であり、逃げる道を見つけることは極めて難しくなる。平和な時だからできることがあると思う。本当に、これで良いのかと、個人的には感じてしまう。

この本「逃げる力」は、“逃げる”ことで成功に辿り着いた百田氏自身のノウハウの公開という側面もあるように思う。本の中でも、一度も負けずに、逃げることのない人など殆どいないと説かれるが、百田氏のように上手く逃げて、大きな成功を掴んだ人も、まず、いないように思う。

高校の時点から県内でも最も偏差値の低い高校に行っていましたし、浪人中に中学の勉強からやり直して、なんとか合格した大学も、五年間も通ったあげく、単位が半分ぐらいしか取れなくて、中退してしまいました。そのとき、学生時代に何度も出演した視聴者参加のテレビ番組のディレクターが、「することがないなら、放送作家をやらないか?」と声をかけてくれたのです。

そんなことから大成功への道を歩むわけであるが、逃げながら、大胆に立ち回る能力は、まさに天才ボクサーのようでもある。特に印象に残った百田氏の文章を引用したい。

ツイッターのブロックも無駄なストレスから「逃げる力」の一つです。で、毎日、ルンルンとブロックしています。

こんな人もいるんだと思えることが、この本の大きな効用の一つかもしれない。

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