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「アフター・ビットコイン」を読んで考える

書籍名 : アフター・ビットコイン―仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者
著作者 : 中島 真志
出版社 : 新潮社
ISBN : 9784103512813

それは監視社会への道なのか (2019/02/19)

この文章を書いている2019年2月中旬時点で、1ビットコインが、40万円前後のレートとなっている。仮想通貨バブルの終焉ではないかと、感じている人も多いのではないだろうか。確かに「51%攻撃」と呼ばれる問題や、莫大な電力消費の問題など、ビットコインの仕組みを支えるマイニング、その基となるプルーフオブワークには限界があるように思う。

そもそも、マイニングをすることの損益分岐点近くでの値動きとなっているわけだが、大きく割れるようなことになると、ビットコインは存続できるのか、もし仮に存続できないとしたら、どのような過程を経て終わりを迎えるのかとも考えてしまう。

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photo : Pixabay

2017年に書かれた、この本「アフター・ビットコイン―仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者」は、本の名前からして、次のアルトコインの話なのかと思う人も多いのではないだろうか。確かに、一部に、アルトコインについての記述はあるが、元日銀、BISでの勤務経験もある著者、中島真志氏が書いたこの本は、通貨全体の話や、ブロックチェーンに関する記述が主であり、そもそも「通貨とは何か」とか、「ビットコインとは」といった、根本的な疑問に答えくれる。

このように、本書は、かなり盛りだくさんの内容となっており、一冊で相当多くの知識を得て頂くことができるものと思います。

本の最初に、著者自身が、記されているように、仮想通貨というよりも、通貨の未来や、ブロックチェーンの今後について知るために、幅広く書かれた、とても役に立つ本だと思う。例えば、業務でブロックチェーンの使用を検討するようなときに「2017年から2018年にかけて世間を騒がせたビットコインとは何だったのか」について把握しておきたいと考えたとしたなら、全般的な理解を得るために役立つと思う。

初の仮想通貨であるビットコインは、もともとは、どの国の当局(政府や中央銀行)からも管理されない通貨を作りたいという「自由至上主義者」(リバタリアン)のイデオロギーに基づいて開発されたものでした。そのまさに回避しようとしていた中央銀行がビットコイン用に開発された技術を使ってデジタル通貨を発行しようとしていることは、なかなか皮肉な成り行きのようにも思われます。

この本を読んで、個人的に考えた二つのことを記したい。一つは、著者が指摘しているように、中央銀行が発行する通貨のデジタル化についてである。そして、もう一つが、これは極めて個人的な意見であるが「ビットコインとは何だったのか」に対する答えである。

昔から、紙の通貨を電子的な通貨へ切り替える計画があったいう陰謀論的な演出を施された動画、記事を目にするが、金融の中枢で活躍されていた著者の中島氏が、1990年代頃から「電子現金」のプロジェクトが実施されていたと記している。良く考えてみれば、昔から「電子マネー」というものは、存在していたわけで、「電子現金」のプロジェクトが実施されていたとしても何ら不思議ではない。

しかし、ビットコインを経験し、より大規模な「電子現金」実現の可能性を知ってしまった後になると、随分と感情的には違ってくる。AI技術や監視カメラの普及などと合わせれば、完璧な監視社会が完成するわけである。

そもそも、中央銀行が暗号通貨を発行するために納得のいく理由を示せるのかという疑問も湧いてくる。その疑問に対する答えの一つとしては、この本にも記されているように、株や不動産などの資産の台帳が、ブロックチェーン技術を使った分散型台帳へ移行するようになれば、その取引に使われる現金も、分散型台帳技術を使った暗号通貨へ移行するべきだという考え方がある。勿論、ビットコインのようにマイニングを必要とする仕組みではない、別な形のブロックチェーンの仕組みが使われることになるであろう。この本では、そんな技術的背景も、多く学ぶことができる。

もう一つ、個人的に考えたこととして「ビットコインとは何だったのか」に対する極めて個人的な結論、否、仮説程度なのかもしれないが、それを記しておこうと思う。「ビットコイン、それは完璧なまでの成功を収めた、壮大なブロックチェーンの実証実験だったのではないか」と考えるに至ったということだ。株式のように、PERや、PBRなどの明確な指標の存在しない暗号通貨が、なぜ、これほどまでに多くの信用を得るに至ったのかといった疑問は残るが、結果として、ビットコインによって、ブロックチェーンの極めて大規模な実験が完了したことは間違いがない。

著者は、ビットコインへの懐疑的な見方を取っているようであることが「アフター・ビットコイン」という題名からも読み取れるのではないだろうか。勿論、この文章は、一切、投資に関する情報を提供しているものではないが、それでも個人的には、政府の監視から、少しでも遠いコインへの需要は無くならないようには思う。但しそれは、もしかするとビットコインではないのかもしれないとふと思った。

つまり、中央銀行は、銀行券をたくさん発行してバランスシートを大きくすればするほど、利益が出る仕組みとなっているのです。

この本には、さりげなく「えっ、そうなんだ」ということも書いてある。専門的なことを、一般の人にも分かり易いように纏めてくれている、とても多くのことを学べた本だ。

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