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「日本は誰と戦ったのか―コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ」を読んで考える

書籍名 : 日本は誰と戦ったのか
著作者 : 江崎 道朗
出版社 : ベストセラーズ
ISBN : 9784584138298

世界は今も工作活動で溢れているのか (2019/02/26)

「日本は誰と戦ったのか」と言われれば、第二次世界大戦のことだとすれば、誰と聞かれているのでアメリカではなく、トルーマンとか、ルーズベルトとなるのだろうか。保守的な人であれば、欧米の侵略と戦ったので、欧米の植民地主義者といった答えもあるのかもしれないし、陰謀論が好きな人であれば、その侵略をしかけたのは、国際金融資本家たちとなるのだろうか。

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photo : Pixabay

この本「日本は誰と戦ったのか―コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ」では、第二次世界大戦時の米国において、国の中枢に深く浸透していたソ連・コミンテルンの活動、影響について、多くの参考文献からの引用を使いながら解き明かしてくれる。

1995年の「ヴェノナ文書」の公開により、第二次世界大戦時のソ連・コミンテルンに関する研究が進み多くの本が出版されたなかで、特に反共保守派の著名な作家エヴァンズらによって書かれた「スターリンの秘密工作員」という邦訳のされていない本の引用を中心に解説がなされる。そして時にやや考えを異にする長尾龍一東京大学名誉教授『アメリカ知識人と極東』などからの引用なども使って様々な方面から検証がなされる。では、「ヴェノナ文章」とは一体何なのか。

アメリカ政府は一九九五年、ソ連・コミンテルンのスパイたちの交信記録である「ヴェノナ(VENONA)文書」を公開しました。一九四〇年から一九四四年にかけて、アメリカにいるソ連のスパイとソ連本国との暗号電文をアメリカ陸軍が密かに傍受し、一九四三年から一九八〇年までの長期にわたってアメリカ国家安全保障局(NSA)がイギリス情報部と連携して解読した「ヴェノナ作戦」に関わる文書のことです。

近年、インターネット動画の普及により、ネット上には、多くの専門家による、第二次世界大戦に関する解説がなされ、溢れているといっても良いくらいかもしれない。しかし、この本で解き明かしてくれている視点はかなり貴重だ。「第二次世界大戦の本当の勝者は、戦後、植民地から解放されたアジアの国々だ」などという人もいるが、それよりも、いつの間にか共産主義国家が地球の半分を占めるに至ったことに、私自身が余り大きな疑問を感じてはいなかったことに驚く。そこ至る背景には何らかの極めて大きな要因が当然あった筈だ。しかし、そもそも私のような庶民には「コミンテルン」と書いただけで、うさん臭さが漂う気がしてしまう。では「コミンテルン」とは何なのか。

コミンテルンとは一九一九年(大正八年)、ロシア共産党のレーニンが創設し、一九四三年まで存在した、共産主義政党による国際ネットワーク組織のことです(そのネットワークは戦後も形を変えて続きました)。その目的は、世界各国で資本家を打倒して共産革命を起こし、労働者の楽園を作る、というものです。

勿論、私だけではないと思うが「労働者の楽園」は何処にあったのかを知らないし、共産主義国家となった国々が自ら望んでなったわけではないであろうことはわかっている。では一体どんなきっかけがあったのか、この本は、その疑問にも答えてくれる。

ルーティンワークだけならば、トップが不在でもなんとかなるかもしれませんが、戦争中にルーティンワークは存在しません。ルーズヴェルトが機能していなければ、トップレベルの誰かが公電を読み、返信を書き、重大な決定を下す必要がありました。それをいったい誰がやったのかが重要です。

病気の進行で、機能していないルーズヴェルト政権に巧妙に入り込んだ工作員たちの活動が、この本に詳細に綴られている。4選を果たしたルーズヴェルトの病状の悪さ、工作員がヤルタ会談を仕切っていたという驚くべき証拠、その会談で、戦後の国際秩序が決められていった流れを知ることができる。では、なぜ、そのようなことになったのか。

世界最大の共産主義国であるソ連は今や我々の同盟国なのだから、軍や政府の公職から共産主義者を排除するべきではないという理屈で、むしろ積極的に共産主義者を公務員として雇うようになりました。それまでは公務員を採用する際に、共産党員であるがどうかだけでなく、さまざまな共産党のフロント団体に加入しているかをどうかもチェックしていたのですが、就職希望者にそういう質問をすること自体してはいけないことになりました。

これはどこかで、聞いたことがある。この日本で、極めて近いと思える状況を聞いたことがある。

私のような一般の人が、こんな本を読んで何をしたいのかと訊かれそうな気もする。勿論、本当のことなのかを検証する手立てもない。仮に本当のことだとしても、本当のことを知ってどうしたいのか。少なくとも過去のことを参考にすることはできる。「ソ連は同盟国なのだから、公職から共産主義者を排除するべきではない」という考えに基づき様々なプロパガンダが飛び交っていたであろう。そんなプロパガンダを許さなければ世界はもう少しマシになっていたのではないかと思う。

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