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「経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済」を読んで考える

書籍名 : 経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済
著作者 : 上念 司
出版社 : 講談社
ISBN : 9784062915212

この国の経済、やっぱりヘンだ (2019/12/20)

長引くデフレ、20年もの長期にわたりほとんど増えないGDP。多くの国民は、この国の経済が少しヘンだと思っているのではないだろうか。なにがヘンなのか。「国の借金1000兆円」が詭弁であることは、多くの国民の知るところになったと思う。それでも、まだNHKや朝日新聞などが垂れ流す報道を鵜呑みする人の方が多い気がする。

個人的には、できる限り多くの情報に目を通し、ある程度、気付いているつもりでもあるが、根拠の希薄な「掛け声」を信じてしまっていることもある。そもそも、具体的にどこが問題なのだろうか。この本「経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済」では、具体的な数字や事例で、問題点を示してくれる。この本では、私たちが考えるための多くのキッカケを与えてくれる。

この本「経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済」で具体的に示されていた2つの問題、「働き方改革」と「輸出立国」について考えてみたい。

この文章を書いている2019年、テレビで良く耳にする言葉に「働き方改革」がある。まるで何かのキャンペーンのように、繰り返される「働き方改革」。一体、誰か、得をする人がいるのかと考えてしまう。上念氏が巻頭で、政府の産業政策は官僚による机上の空論と書いていたように、本当に「空論」というだけなのか、より悪い帰結が待っているのではないかとも邪推してしまう。

「働き方改革」は、何のためかといえば、一般的には「労働生産性の向上」のためなどが挙げられるだろう。しかし、上念氏は、「働き方改革」は、「労働生産性の向上」には寄与しないと、その矛盾を様々な面から指摘する。

むしろ一九九〇年代後半以降のほうが、パソコンやインターネットの普及で仕事の効率が飛躍的に向上しています。それにもかかわらず、ウィンドウズ95や98が爆発的に普及した一九九〇年代半ば以降から、日本の労働生産性が急激に下がっています。職場にパソコンが導入されて、みんながゲームに夢中になってしまったのでしょうか?

通勤電車

photo:ashinari

労働生産性の算出方法は、名目GDPを、就労者数で割って算出されると上念氏は指摘する。国際社会で問われている労働生産性は、一人当たりの名目GDPとも取ることができるわけで、よく考えると、今の日本では「働き方改革」と、「生産性の向上」は、何ら関係がなくなる。但し、分母を「就労者数」ではなく、「一人あたり総労働時間」にすれば、確かに「働き方改革」で、「労働生産性は向上」するのかもしれない。でも、それは、少ない時間で、同じGDPを稼がなければならないということだ。儲からないことをやる余裕はない。儲からないものは悪になり、削るべきだという考えに繋がる。「おもてなし」などとは逆の考え方になる。ここで、視点を変えて、国単位ではなく、大企業の視点で考えてみれば「働き方改革」という掛け声は、少ないコストで、同じ収益を叩き出す、魔法の言葉となる。誰のための改革なのだろうか。

もう一つ、よく経済ニュースなどでも耳にする言葉の「輸出立国」についても考えてみたい。

経常収支が黒字になることは、日本が貿易戦争に勝ったのではなく、単にその年の生産量を消化するだけの需要が日本国内になかっただけの話です。あくまでも「収支」の問題ですから。

コンテナ

photo:ashinari

国際収支については、なかなか私のような一般人には理解が難しい。平たく考えてみると、確かに、自国で消費できないほどの製品を作って、海外に売り付けるビジネスモデルは、当然、どこかから叩かれるようにも思う。発展途上にあるうちは、大目に見てくれることもあるだろう。でも、いつまでも大量に作ったから買ってくれとやれば、勘弁してくれって言われるだろう。しかも、自国では、節約ばかりを唱え、消費を絞りに絞っているのだから。

では、なぜ、国は何もしないのだろうか、政治家も、官僚も、企業経営者も。たぶん多くの方がそう思っているのではないだろうか。それで儲かる奴がいるということなのだろうか。上念氏は、緊縮・増税派の政治家についても鋭く誤りを指摘する。

完全にイカれております。ハイパーインフレを本気で心配しているとしたら、石破さんは絶対に経済閣僚にはなってはいけないし、おそらく政治家になっていい人ではないかもしれません。

有名な第一次大戦後のドイツのハイパーインフレは、生産力のある地帯を占領されたことによる圧倒的な供給力不足という前提があり、今の日本とは大きく違う。焼け野原となった第二次大戦後の日本でさえも、ハイパーと呼べるようなインフレは起こっていないのではないだろうか。確かに上念氏が指摘するように、私のような一般人でさえ、疑問に思うような政治家の発言が、この本には書かれている。

上念氏は、大企業経営者についても次のように切り捨てる。

経団連に名を連ねるような大企業がやっている仕事は、巨大な既得権の維持です。それは、いま目の前にある市場の刈り取りであって、将来的に大きな価値を生み出すフロンティアを開拓することとは必ずしもイコールではありません。

この本「経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済」は、他にも数多くの例を挙げて、経団連や政治家の間違い、マスコミのプロパガンダを指摘し、私たちに多くの考えるきっかけを与えてくる。只、私は一般庶民として、どうしても考えなければならないことがあるように思う。このまま衰退する日本を、世界は放ってはおかないのではないかということだ。日本人が、カリソメともいえるものでも平和を享受できたのは、様々なチカラのバランスがあってのことだ。東西冷戦の中、アメリカの軍事力の傘下にあったことも大きいだろうし、戦前・戦中の私たちの先代が示したチカラが、終戦後においても影響力を持っていたことも間違いないであろう。このまま日本が衰退すれば、そのチカラのバランスは大きく崩れる。小さな国の過酷な現実は、歴史を振り返るまでもない。「子や孫にツケを残すな」と、緊縮を進める方々が、子や孫に残したツケは、とてつもなく過酷なモノではないだろうか。そして、本当に過酷な現実に晒されるのはいつも庶民なのだ。

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