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「財務省が日本を滅ぼす」を読んで考える

書籍名 : 財務省が日本を滅ぼす
著作者 : 三橋 貴明
出版社 : 小学館
ISBN : 9784093885799

一億総マネー教信者になっていないか (2020/01/07)

最近では「国の借金1000兆円」といったメディアの報道に、疑問を投げかける人も少なくないが、10年くらい前までは国中のほぼ全ての人が、メディアの報道を信じていたのではないだろうか。そもそも日本は、世界最大の対外債権国だ。借りているのではなく、貸している筈だ。ならば、一体誰に借りているのか。それは日本の銀行や、年金基金などである。国が、国の一部や国内から借りているいるという問題ではないか。私のような素人が考えても明らかにおかしい、どうすれば、良く言われているように「ハイパーインフレになる」となるのか。それでも今は、本当に良い時代になった。疑問に答えを提供してくれる本がたくさんある。特に早い時期から答えを与えてくれたのが、この本「財務省が日本を滅ぼす」の著者である三橋氏だ。

省庁の中の省庁。日本一の秀才集団。言わずと知れた財務省の別名である。国家公務員総合職試験をトップクラスで合格しなければ、「キャリア」として入省することはできず、また最高ポストである事務次官のほとんどは、東京大学法学部卒業である。そんなエリート集団が日本を歪んだ方向へと導いている。

こんな序文から始まるこの本は、今も多くの国民が信じてしまっているレトリックの構造を解説してくれる。メディアが垂れ流す様々なレトリックを指摘し、私たちに考えるきっかけを与えてくれる。衆愚制とさえもとれる、欧米から輸入した今の民主主義では、私たちのような庶民一人ひとりが考え、簡単には騙されないことが、少しでも良い世界を創っていくことに繋がるのではないかと思う。

Photo:ashinari

私の個人的なことになるが、2005年中頃から1年くらいの間、株の短期売買をやっていた。デイトレーダーなどと呼ばれ、割と多くの人がやっていたように思う。当時、既にインターネットで多くの情報をリアルタイムに得ることができるようになっていた。自ら生成したデータを含め、多くのデータからその日の市場の勢いを見て売買をしていた。年が明けて2006年1月、ライブドア事件が起き、株式市場も衝撃を受けた。それでも日経平均株価が一時的に下がった程度で、数日で元の株価に戻ったと記憶している。しかし、ライブドア事件を機に、市場の勢いがまるで変ってしまったのだ。デイトレード自体は、その後暫くして止めたが、どうしても「市場の勢いの変化」が気になって仕方がなかった。だいぶ後になって分かったことだが、小泉政権の後期に、一時的に金融緩和に向かいかけた政策が、この事件と合わせるように、一気に緊縮に舵を切っていたようである。そして、現在のデフレへと続くわけである。2010年頃の経済ニュースでも、まだ「デフレ」という言葉を聞くことは、殆どなかったと思う。「市場の勢いの変化」のわけをどうしても確かめたくて、その頃、私は「デフレ」について書かれた本を何冊か読んでいた、なぜか今とは全く違った解説の本ばかりだった。そこから、更に何年かを経て、インターネット動画が随分と普及し、blogで活躍していた三橋氏のような方々が、YouTubeでも詳しくデフレについて教えてくれるようになった。

私は、この本「財務省が日本を滅ぼす」で、現在の酷いデフレに嵌っている構造、メカニズムを改めて学んだ。三橋氏は、1997年に始まった財務省の緊縮財政至上主義を問題の中心として捉え、日本経済の現状を解説する。その上でこの構造に巣食うレント・シーカーの存在を指摘する。

名目GDPが伸びないデフレ国は、税収の源泉たる所得が減るため、財政は必ず悪化する。緊縮財政こそが、政府の税収を減らし、財政を悪化させるのだ。緊縮財政により財政が悪化すると、レント・シーカー(政商)たちが望む規制緩和、自由貿易の推進が容易になる。規制緩和、自由貿易、緊縮財政の三つの政策は、不可分なのである。緊縮財政なしでは、規制緩和や自由貿易はできない。この三つは、切り離すことができないのである。すなわち、グローバリズムのトリニティだ。

財政破綻論に基づく緊縮財政こそが、レント・シーカーたちにビジネスチャンスを提供する基盤なのだ。

これらの基本的な構造の上で、現在日本で起きている問題点、飛び交うレトリックを解き明かす。そのうちの一つが「プライマリーバランス」だ。

政府の財政健全化の定義は「政府の負債対GDP比率」の引き下げであり、他にはない。ところが、2004年に当時の経済財政政策担当大臣であった竹中平蔵氏が、財政の世界に「プライマリーバランス」という概念を持ち込んだ。

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MaccabeeによるPixabayからの画像

私だけではないと思う、多くの方々もプライマリーバランスの黒字化と言われれば、良いことのように感じてしまうだろう。というよりも、どこが悪いのか分からないという人が大半ではないか。だから余計に「プライマリーバランス」という考え方は、タチが悪いのかもしれない。経済政策の強烈な足枷になっているのかもしれない。

三橋氏は、今、日本で起きていることを詳しく、私たち庶民では消化不良を起こしそうなくらいに深く書いてくれている。それでも個人的には、今起きていることには誰か基本的なデザインを描いた人がいるのではないか、設計した人がいるのではないかと気になってしまう。また、なぜそれを変えようとする人が皆無と言ってよい状態なのかと絶望感さえ感じる。この本の中でも、三橋氏は、多くの解決策を提示するが、問題は、そもそもこの構造を脱するべきだという意識を持つ国民が極めて少ないことではないだろうか。脱デフレといえば、多くの賛同も得られるのかもしれない。でも、殆どの国民が何らかの既得権益の下で働いている状況において、一時的にでも自分の権益の構造を壊すことに、強烈な反感を持つように思う。もしかすると、多くの国民は構造を変えようという余裕さえなくなっているのかもしれないが。

私は、問題の根は更に深いと考えている。なぜなら日本国民が「総・マネー教信者」ともいえる状態になっているからだ。だから「グローバリストって何が問題なの」となる。簡単に「子や孫に」と口にするが、決して後世のことなど考えてはいない、「今カネを儲けることが正しい」といった風潮、いや、まさに宗教の教えのように絶対的な正義にさえなっているような気がしてならない。

私が2010年頃に読んだデフレの本は、人口問題をデフレの原因として解説する本が多かった。この本の中でも三橋氏が人口問題を原因と捉える『デフレの正体』という本の間違いを指摘している。当時、強烈な違和感を持ったが、三橋氏の本を、私は当時まだ読んでいなかったし、三橋氏も少し違ったテーマで執筆をされていたように思う。世の中には今でも、明らかに辻褄が合っていないと思う本が溢れているようにも思うが、三橋氏のような方が、多くの情報を提供してくれていることを、私たち庶民は活かし、考えるきっかけにしていかなければならない。本当の意味で、間違いを繰り返さないために。

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